君に伝えたかったこと
ワインをオーダーするその横顔に、頬杖をつきながら、いたずらっぽい視線を投げかける紗江。

「で、なんで別れたんだっけ? 私、はっきりとした理由を覚えてないかも」

「そうなの? それならわざわざ思い出す必要ないんじゃない?」

微笑みながら、答えをはぐらかすように答える。
しかし芳樹ははっきり覚えていた。二人が別れた理由、それが本当に些細な出来事だったことを。

そして、もうひとつわかっていること。
それは紗江が本当に別れた理由を忘れてしまうわけがないということ。

「ふーん、ワインなんて飲むんだ。あの頃はお酒なんかほとんどの飲まなかったのにねー。」

「そりゃ6年も経てば色々変わるさ」

「ふーん、あれからそんなに経ったんだ」

「そう、6年」

「ふーん、しっかり覚えてたじゃん、あれから6年って」

「なんだよ、ふーんふーんばっかり」

「私にだって色々あるけどさ、ワイン飲む芳樹なんてちょっと不思議。もしかして、ワインを飲むようなきっかけになった人でもいるのかな?」

何気ない言葉だった。

しかし、それに「そうだよ」と答えることはできなかった。
いや、わざとしなかったのかもしれない。

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