君に伝えたかったこと
先に寝るねとメールしたものの、そのままベッドに入っても眠れないような気がしていた。


芳樹と再び連絡を取り合うようになって2週間。
ラインの数も交わす言葉も一気に増えた、美貴恵にとって心から望んでいた状況になった。

それでも、ほんの少しだけ気持ちの中にぬぐいきれない不安が残る。

芳樹からのラインも電話も、出逢った頃となにひとつ変わっていないのに。
伝えてくれる言葉も、優しい表現も心地よいものばかりなのに。

それでもなぜか、ほんのわずかな違和感を覚えてしまう。

それは、仕事が忙しくてまだちゃんと顔を見ていないせいもあっただろう。
それが理由だと思い込むこともできた。

ただ、そのなんともいえない違和感の元を、美貴恵はあえて考えたくはなかった。
もし、具体的に考えて、明確な答えがわかってしまったら、不安になりそうだったから。

そんな中で、ひとつだけわかっていたのは、次に会ったら芳樹にいろいろなことを話さなければいけないこと。

自分の想いのありったけを伝えなければならないこと。

そしてそ、過去の自分勝手な行動をちゃんと謝らなければいけないことだった。

(気持ちはあのころのままだよ)

そうメールで伝えてくれた芳樹。
でも、その変わらない気持ちが、あの二人で一緒にいた頃と同じ温度なのかどうか。
もしかしたら気持ちは同じでも、その意味が自分と芳樹の間で大きくずれてしまっているのでは?

そんな考えも、ふと頭をよぎる。

その本当の答えがわからない中で、美貴恵はいつも送ろうとしてやめてしまうラインがあった。
それは

(なにしてる?)

というたった一言。

相手がどこで何をしているわからないタイミングで送るこのひと言は、なにひとつ不安も心配もない二人だからこそ送れる言葉。

そう思っているから。

だから、この言葉を送るのはもう一度、ちゃんと会ってから。そう決めていた。

(今は不安でもいい。きっとあなたの顔をみたら、全部が解決すると思うから。 おやすみなさい)

美貴恵の胸元で静かにネックレスが揺れた。

< 121 / 158 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop