君に伝えたかったこと
「俺に彼女がいるっていったじゃん。その人とは色々あってさ。紗江と偶然会ったとき、彼女はそばにいなくて。
でも、紗江と会ったのとほとんど一緒のタイミングで、戻ってきたんだよ、彼女」

芳樹は、美貴恵とどんなふうに過ごして、どんな関係だったか話はじめた。
その話を聞く紗江は、じっと芳樹の顔だけを見つめていた。

ゆっくり話し続ける芳樹

すると紗江が急に大粒の涙を流しながら、芳樹の言葉を遮った

「そんなのズルいよ! 絶対にズルい!」

その声は震えていた。

「その人、芳樹との将来なんて考えてないじゃない。それなのに、また一緒に居たいなんて。おかしいよ、そんなの」

紗江は自分でもわかっていた。一方的に別れておきながら、またこうして芳樹に好意を抱いている自分と美貴恵が同じだと言うことを。

それでも既婚者でありながら一緒に居たいと言う美貴恵が、どうしてもズルいと思えてしまうのだった。

「その人が既婚者じゃなかったら、私きっと納得できたと思う。こうして芳樹とも会えたし、仲良くすることもできたから。
でもね、芳樹。そんな未来のない関係に・・・また戻る意味ってある?」

潤んだ大きな瞳が訴えかけている。

「そうだよ、彼女は既婚者で、それをわかって恋人同士になった。それから会わなくなって時間が過ぎて。
もう一度俺の生活に戻ってきた彼女はやっぱり既婚者だったけど・・・それでも大切な人なんだよ、俺にとっては」

二人しかいない部屋の時間が、一瞬止まる。
遠くから聞こえる電車の音、車のクラクション・・・

(私は違う! 死ぬほど後悔したから。芳樹との将来だって作っていける)

紗江の本心だった。

言葉にすることはできなかったけれど・・・。
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