君に伝えたかったこと
-芳樹の事務所-

夜9時
事務所の電話を受けたのは大志だった

「はい、オフィス331です。あっ、いつもお世話になっております。
はい澤田ですね、少々お待ちください」

「芳樹さん、デザイナーの三田さんからです」

電話を切ると大志を自分のデスクに呼んだ。

「はい、なんすか?」

「いや、やっぱいいわ」

芳樹か軽く首を振ってため息をつく

「電話対応もしっかりしてきたから、少しは褒めようかと思ったけど・・・やめた」

「え? いや なんなんすかー!」

紗江との仕事が片付いたタイミングで、芳樹は大志を事務所の契約カメラマンとして雇っていた。
相変わらずどこか抜けてはいるものの、けっこういい写真を撮ってくるようになった大志を、どこか心強くも思っていた。

そんなとき、ラインの通知音。

『お疲れ様、芳樹。 やっと明日逢えるね。本当に楽しみにしてる。今日はまだ仕事だよね。がんばってね』

美貴恵からのライン。
いつものように、素直な気持ちを伝えてくれる内容は、芳樹にとってかけがえのない宝物のひとつだった。

(やっと逢えるな)

『ありがとう美貴恵。あと少ししたら帰るよ。明日、俺も楽しみにしてる。おやすみライン、待ってるよ』

返信をし、再び書きかけの原稿を進める芳樹。


ずっとずっと待っていた時間。
何も考えずに美貴恵のそばにいよう。

これからもずっと・・・二度と離れないように・・・

その想いは間違いなく本物だった

(でもね、芳樹。そんな未来のない関係に・・・また戻る意味ってある?)

紗江の言葉が、通り過ぎた。


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