君に伝えたかったこと
ベンチに座って数分、目の前を急行電車が通り過ぎる。
その風が二人に届いた瞬間、紗江はゆっくりと目を閉じた。

「眠くなった?」

その問いかけに返事はせず、目を閉じたまま紗江は小さな声でこう言った。

「芳樹は決めたの?」

 そのひと言が、紗江のこと、美貴恵のこと、自分のこと、そして未来のこと。
そんな意味をすべて含んでいることを、はっきりとわかっていた。

「決めた・・・っていうよりも、決めていた・・・かな」

「そうなんだ。じゃあ、私も決めなきゃね」

紗江は急にベンチから立ち上がり、芳樹の方に向き直る。

「なに? 急に?」

「ありがとうね、芳樹」

驚いて、見上げたその瞬間、紗江は顔を近づけ、軽くキスをした。

「ありがとう」

紗江が言ったその言葉の意味を芳樹ははっきりとわかっていた。
そして、今日からまた何かが変わり始めることも・・・。

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