君に伝えたかったこと

聞きたかった言葉

過去のこと、未来のこと
出会ったころよりも、ずっと共通の話題も増えた

「芳樹にいろんなところ連れて行ってもらったけど、私はこの街が好き」

「思い出の場所だもんね」

「うん、これからもたまに、ここに連れてきてもらえる?」

「もちろん」

「やった!」

握っていた芳樹の手を、さらに強く握る美貴恵。

二人が一緒に積み重ねてきた時間。

そして、これからも想いを積み上げるためには何が必要かわかっていたから、美貴恵は思い切って芳樹に尋ねてみた。

「ねぇ、芳樹はずっと先のこと考えてる?」

急な質問に、美貴恵の顔を覗き込む。

「それって仕事のこととか?」

「ううん、違うよ。私と・・・ってこと」

その言葉を口した瞬間、美貴恵の鼓動が一気に早くなる。

(どんな答えが返ってくるんだろう? お願い!)

芳樹の声が、優しく耳に届く

「ずっと一緒にいたいよ。ずっと美貴恵のそばにいたい」

そう言われたとき、美貴恵の中にあった不安が一気に溶け出していく。
そして、溶け出した不安は大粒の涙に変わる。

(嬉しい・・・やっぱり芳樹はそう答えてくれた。でもこれだけじゃない・・・)

ありったけの勇気を振り絞って美貴恵が口を開く

「でもね、私は結婚・・・」

そこまで声に出したとき、芳樹がそっと美貴恵の唇に手を当てた

「大丈夫、その先は言わなくても。美貴恵は幸せになれるよって、何回も伝えたよね」

「うん、でも・・・」

「安心して。ずっと一緒にいるよ。その先を話すのは俺の役目だから。美貴恵は心配しなくていいよ」

人々が行きかう駅前通り。
芳樹は美貴恵を静かに抱き寄せた。

「来週の今日、もう一度この街に来よう。何かあるわけじゃないけれど、始まった場所で美貴恵に伝えたいことがあるんだ」

「来週? 今日じゃダメなの?」

「うん、一週間だけ時間が必要」

そう言っていたずらっぽく笑う芳樹を見て、心から安心することができた。

「わかった。じゃあ来週だね。きっと私も話すことあるよ」

「楽しみにしてる」

二人は、手をつないだままゆっくりと歩き出した。

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