君に伝えたかったこと
時間が経つのを忘れてしまうほど、集中してパソコンに向かっていた芳樹が、ふと時計を見る。

午前1時

昼間は通り過ぎる車の音が、窓から飛び込んでくるこの場所も、深夜には静けさに包まれる。

(こんな時間か・・・)

冷めたコーヒーを飲みながら、座ったまま大きく伸びをする。

(ずいぶん時間がかかっちゃったけど、あと少し。やっと完成か・・・)

無数の文字がぎっしりと並んでいる、パソコンのモニター。
仕事としては書いたことがない小説の原稿。

芳樹はそれをぼんやり眺めていた。



(仕上げはすぐにできるから、今日は帰るか)

帰り支度をし、事務所を後にする。
芳樹のクルマは夜中の街を、ゆっくりと走る。

(来週の今頃、美貴恵は何を考えているんだろう? 喜んでくるよな。きっと・・・)

大切な人がいつも笑顔でいられるように

これからもずっと幸せでいられるように

そう願う想いが、止まらずに、消えずに、まっすぐ届きますように・・・


芳樹もまた、美貴恵に自分の覚悟を伝えようとしていた。
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