君に伝えたかったこと
美貴恵は既読にならないラインを見ながら、待ち合わせ場所で待っていた。

(なにあったのかな?)

それまで、よほどのことがない限り、美貴恵がラインを送ればすぐに既読になった。
返信もすぐに送ってくれた。

そんな芳樹だから、デートの当日に連絡が取れないなんてことはこれまで、一回もなかった。

(もしかして、携帯を忘れちゃった? 壊れちゃったのかもしれないな)

 連絡が取れない原因はわからなかったが、待っていれば時間通りに迎えに来るはず。美貴恵は安心して待っていた。
 
ところが時間を過ぎても現れない。
さすがに何かあったのかもしれないと、携帯を鳴らしてみた。

呼び出し音は鳴っている。

約束した時間から30分が過ぎたころ。

美貴恵は心配になって、何度も度携帯を鳴らす。

そして、何回目かの発信をしたとき、知らない声の男性が慌てた様子で電話に出る。

「澤田さんのお知り合いの方ですかっ」

「は、はい」

「澤田さんが事故に遭われて・・・」


そこからは、自分が何を話したのか、どんなことをしたのか一切の記憶はなかった。
気が付いたときには病院の待合室にいて、となりにはさおりがいた。
 
さおりは美貴恵の肩を抱きながら、ずっと震えていた。
そうしている間も、美貴恵はどこまでも続く病院の廊下をただ見つめているだけだった。
 
遠くに聞こえる、救急車のサイレンの音。慌ただしく走り回る白衣の人たち。
目に映るのものすべて、聞こえる音すべてが、美貴恵の感情を奪っていく。

ただ頭の中に繰り返し流れてくる言葉

(なにがあったの? どうしたの? 芳樹はなんで来ないの?)
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