君に伝えたかったこと
さおりから手渡された、一冊の本。

美貴恵は一文字も見逃さないように、読み進めた。
登場人物の名前こそ変わっていたけれど、そこに綴られていたのは、間違いなく二人が積み上げてきた出来事。

初めてのデート、初めてのキス。
出かけた場所、楽しかった会話。

(そうだ、私こんなこと話たんだ)

(あの時、芳樹はこんなこと言ってた)

読み進めれば読み進めるほど、二人の間に流れた時間が鮮やかによみがえってくる。

(芳樹・・・逢いたいよ。顔が見たいよ)

そう想いながら、芳樹が描いた二人を追いかける

小説の中の二人は、キラキラした時間の中で過ごしていた。

気が付くと、残るのは最後の章だけ。
読んだら終わってしまう物語。

(どうしよう、終わっちゃう)

美貴恵の手が止まる。

(この二人の話、ハッピーエンドなのかな?)

一瞬、結末を想像してみた。

(芳樹が書いたんだから、幸せな終わり方に決まってる)

最後の章を読み始めた。

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