君に伝えたかったこと
そして電話を切ろうとすると、小さく「あっ」という声が聞こえてくる。
美貴恵の指がボタンを押しかけたまま一瞬止まる。

「撮影は初めてなんですよね。僕が全部フォローしますから心配しないでください。最初だけちょっと緊張するかもしれませんけど大丈夫ですから。」

一方的に言葉が飛んできて電話は切れた。

電話を切ってしばらく、ソファーに座って定まらない視線を泳がせていた。
テーブルの上にはさっきの電話で話したスケジュールをメモした紙が一枚。

12日 AM11時 サワダヨシキ 赤いクルマ 普段着 090-✖✖✖✖-△△△△

(なーにが大丈夫なんだか…)

テーブルの上のメモを拾い上げ、そっと二つ折りにして財布にしまい込む。

何気なく走り書きした一枚のメモ。

時間、場所 名前 連絡先

その日が終われば 見返すこともなく、捨ててしまうただの紙きれのはずだった。

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