君に伝えたかったこと
少しの休憩を挟んで、再び撮影が開始される。
美貴恵の緊張もだいぶほぐれ、スタッフや芳樹と普通に会話できるようになっていたが、やはりレンズを向けられると、体が固まってしまう。

そうなるたびに

「大丈夫ですよ~。もう少しだけリラックスしてみましょう」

まるで優しい先生のような口調で美貴恵を誘導してくれる。

それでもどうすればリラックスできるのかわからずに戸惑ってしまう。
するとスルスルと芳樹が近づいてきてアドバイスをくれるのだった。

「吉沢さん 体ゆすってみませんか? 肩を一回上げて~ はい下ろす!」

美貴恵の意識が芳樹とのやり取りに向いている間にカメラマンはすばやくシャッターを切る。

「はい、OKです」

カメラマンはニヤリと笑い二人を見る。
意味がわからずキョトンとしている美貴恵。

「カメラを意識しないほうが自然な表情になるでしょ?」

芳樹はカメラマンからカメラを取り上げ、美貴恵に今撮影した写真をモニターで見せた。

「あっ ホントだ!」

手渡された重いカメラのモニターから、視線を外し顔を上げたとき、美貴恵の視界にはカメラマンと真剣に何かを話す芳樹が映っていた。

「ふぅーん、そうなんだ…」

理由はよくわからなかったけれど、美貴恵は気持ちが少し暖かくなった気がした。
< 34 / 158 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop