君に伝えたかったこと
映画館を出た二人は、少し離れた街のあるお店に向かっていた。

ちょっとした会話から美貴恵が大のスイーツ好きだということがわかったからだ。

「スイーツの美味しいお店があるから行こう」

「ホント? 美味しいお店? 行く行く!!」

映画館から30分。華やかでおしゃれな街の一角にあるパーキングに車を停め、二人並んで歩きはじめる。
そして、自然と芳樹の左手は美貴恵の右手を包み込んでいた。

予定していたわけではなく、言葉を交わしたわけでもない。
それでも二人の手はしっかりと握り合って…自然に…当たり前のように…。

「今日は初デートで、なにも用意できなかったけど、もし美貴恵さんにプレゼントするなら洋服? それとも靴とか? やっぱりファッション関係がいいのかなぁ」

「プレゼント? 記念日でもないのに?」

初デート、プレゼント、どちらの言葉も、美貴恵にとって新鮮で素直に嬉しかった。

「でも今日なにかプレゼントしたら初デート記念だ」 

「いいよー。今は欲しい物ないから」

「遠慮しないでよ、オレが勝手に美貴恵さんにプレゼントしたいと思ってるだけだから。なにかほしいものとかある?」

「すぐには思い浮かばないなぁ」

「ウソ。絶対にあるでしょ。」

どんなときも素直な言葉でいろいろなことを表現してくれる芳樹に、美貴恵は新鮮さと安らぎを感じていた。


せっかくプレゼントの申し出を、このまま断るのも悪いような気がした美貴恵は、思い切って欲しかった物があったことを伝えることにした。

「じゃあね、今じゃなくてもぜんぜんかまわないんだけど、ゴルフウェアがほしいな。春に着られるの」

「あれ? 美貴恵さんってゴルフやるんだっけ?」

「ううん、やったことないよ。あっ、この前の撮影でクラブは振ったけど」

「じゃあゴルフウェア持ってても着る機会がないじゃない」

「だって澤田さんはゴルフ好きなんでしょ。そのうち教えてもらおうかと思って」
冗談なのか本気なのか。
芳樹にとってはどちらでもよかった。

ただ美貴恵がそばで色んなことを話してくれる、それが嬉しかった。

「ゴルフウェアね、了解。じゃあどんなのがいいか好みも知りたいし、ちょっと見に行こう。」

再び美貴恵の手を取ってショップに向かうのだった。
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