君に伝えたかったこと
お昼を少し過ぎたころ芳樹からのメッセージが届く。あと1時間ほどで仕事が終わるという連絡だった。

この日の待ち合わせは、美貴恵が決めたターミナル駅。コーヒーショップでさおりからの電話を受けたあの場所。
特にその駅に用事があるわけではなかったが、芳樹と出会うきっかけが生まれた街を一緒に歩いてみたいと思ったのだ。

約束の時間

芳樹は少し遅れて待ち合わせ場所にやってきた。
どちらからともなく手をつなぎ、雑踏の中を歩いていく。
話すことはいくらでもあった。

初めてのデートから2週間の間、お互い何があったのか。何をしていたのか。何を考えていたのか。
思いつくままに二人が話しているうちに、美貴恵が急に立ち止まったのは、あるジュエリーショップの前だった。

「ねぇ ここに飾ってあるネックレス・・・」

そういって美貴恵が指を指す。

「ああ、そのリングが重なってるヤツ?」

「うん さおりから撮影の件で電話がかかってきた日、私偶然ここで見てたんだよね。でね、翌日に
見にこようと思ったんだけど、さおりと待ち合わせしちゃったから来られなかったんだ」

「今日はこのネックレスを見るためにここで待ち合わせしたの?」

「そうじゃないの。すっかり忘れてたんだけど、急に思い出したんだよ」

美貴恵はショーウィンドの前に来るまで、このネックレスのことをすっかり忘れていた。なぜあのときこのネックレスが気になったのか?なぜもう一度見にこようと思ったのか、その理由さえ思い出せなかった。
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