君に伝えたかったこと
店を出た芳樹の手にはショップの名前が描かれた小さな手提げ袋。

そして美貴恵の首にはさっきまでショーウィンドに飾られていたネックス。

「いいの?」

「だって美貴恵さん欲しかったんでしょ?」

「ありがとう 大切にするね。絶対にこのネックレスは私と不思議な縁があったんだよ。初めて見たときから気になってたし…」

「オレと一緒のときに買えたし?」

「さぁそ、それはどうだろ?」

「美貴恵さんってばけっこう意地悪だよね」

春はまだ遠く、冷たい風が通り抜ける夕暮れの雑踏。
その中にいる二人を包む、優しい空気。握った手はお互いの気持ちを確かめ合うように、ぴったりと寄り添っている。

「じゃあ、食事しにいこうか。おいしいパスタの店があるんだ」

「うん、行く行く。パスタも大好き!」

数時間後、美貴恵を家の近くまで送ったあと、車の助手席に投げ出しておいた置いた携帯のにメッセージ。

『今日はどうもありがとう。楽しかったよ。それに素敵なネックレスまでプレゼントしてくれて。あとね、私澤田さんのことなんて呼べばいい? 芳樹さん・・かな?』

こんなメッセージと一緒に美貴恵が今日買ったネックレスをして笑っている画像が添付されている。
画面の中でピースサインをしながら笑っている美貴恵の写真を見て、芳樹は気持ちをギュッと握られた気がした。

(はぁ~ やっぱりオレ…あの人のこと…。ダメなのかな? 好きっていう理由だけじゃ…)

しばらく考えて返事を返す。

『こちらこそ、今日も逢ってくれてありがとう。ネックレスとっても似合ってるよ。それに写真もありがとう。これで毎日顔が見られるね。 呼び方は呼び捨てでいいよ! そのかわりオレも呼び捨てにしたいんだけど」

しばらくして美貴恵から返事が来る。

『そう? じゃ~芳樹で』

かわいいスタンプと一緒に返ってきた美貴恵のメッセージ。

何かに束縛されることもなく、自由な立場だと思えるほど自然に触れ合う二人の気持ち。

この瞬間だけ・・・。
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