君に伝えたかったこと
30分ほどで目的地のアウトレレットに到着する。

ちょうど開店時間だったこともあり、まだそれほど人も多くはない。
二人は手をつないで気になるお店をひとつずつ回りはじめる。

家の近所のように人目を気にすることなく、二人は寄り添いながらショップを見て回るのだった。

「美貴恵が好きなピンクのアイテムはあるかな?」

「どうだろうね。あ!アレかわいい」

美貴恵は何かを見つけショップに入っていく。
どうやら好みのデザインのブーツを見つけたようだ。

しばらく店内でうろうろしながら過ごしていたが、結局は靴を買うことなく店を出る。

「アレじゃダメだったの?」

「色はいいんだけどね。この部分が嫌だったの」

そういって美貴恵は自分の履いているブーツのかかとを指差す。

「ここって?」

「ほら、ヒールの部分。ここが太いデザインはあんまり好きじゃないんだ」

「りょーかい」

こうして、アウトレットの店を歩き回り、ひと時のデートを楽しんだ。

「はぁ、ちょっと歩きつかれたね」

「今日は太陽が出てて暖かいけど、まだまだ寒いからね。糖分補給しないと」

「え?ワタシ?栄養とか水分じゃなくて糖分?」

「うん」

「わたし芳樹といるとプクプクになりそう・・・」

わずかな沈黙、そして美貴恵がポツリとつぶやく

「ねぇ、こうして私とデートしてくれてるけど楽しい?」

突然の言葉に芳樹は少し戸惑っていた。しかし、答えはすぐに伝えることができた。

「楽しいに決まってるじゃん。」

「でも、私はあなたの彼女だけど・・・結婚してるんだよ。アナタは私の大切な人…でも…」

「わかってるよ。でも、それはオレの美貴恵が好きっていう気持ちとは全然関係ないでしょ」

「そうかもしれない。でも私は・・・」

そこまで口にしたとき美貴恵の目から大粒の涙があふれ出す。

「どうしたの急に?」

心配そうに声をかける。しかし美貴恵はそのまま黙ってしまった。


まだ雪が残る山から吹き降ろす冷たい風と、周りを流れていく雑踏と喧騒が二人の沈黙を包んでいく。

お互いの言葉が 消えたまま5分もったたろうか。
美貴恵は小さな声で一言だけ「ごめんね」と言うのが精一杯だった。
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