君に伝えたかったこと

そして・・・夏

街路樹の葉は大きく手を広げ、これからやってくる真夏の気配を十分に感じさせてくれていた。
芳樹が美貴恵の生活から消えてしまって半年。

今でも胸元にはネックレスが揺れている。
そして、あの時間を思い出すように、ときどきふたつのリングを掌において眺めることがあった。

(未練がましいのかな・・・はずしちゃえばいいのに・・・はずせない)

あの日を境にメールも電話もなくなった。
連絡を取りたい気持ちを抑えることに必死だった時期もある。
自分の気持ちの中にある、迷いや後悔、悲しみがいつも美貴恵にため息をつかせた。

それでも必死で日常に戻ろうと、涙をこらえて過ごした時間を積み重ねたはずだった。
しかし今でも携帯電話が鳴るたびにドキっとする。
それは(もしかしたら・・・)そう期待してしまう自分の気持ちをどうすることもできなかったから。

かかってくるはずのない電話。来るはずのないライン。

(もう待つことはやめよう)

何度思ったかわからない。
自分の中ですべて納得していたはずなのに、気持ちがまったく追い付いてこない。

(元気かな?)

そう思うと、メールくらいならと携帯電話に手を伸ばすのだが、そのたびにもう電話番号もアドレスもラインも残っていないことを思い出しため息をつく。

あの晩、別れを告げる電話をしてから、しばらくは何もする気が起きず、ただ毎日、時間が過ぎるのを待っていた。

涙を流すだけの時が過ぎ、何も手につかなかった。
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