君に伝えたかったこと
(誰よりも私のことをわかってくれている)

その想いが美貴恵の心を揺らし始める。

別々に過ごした数ヶ月、凍ってしまったかのように動かなかった時間。

(今あなたは何をしていますか・・・ 逢いたいです・・・)

素直な言葉が心の中に次々と浮かんでくる。

しかし美貴恵の心の中は常に迷いがあった。
もし、再会できるとしても、芳樹という存在を自分から遠ざけてしまった事実にどう向かえばいいのかわからずにいたのだ。

あのときの決断は絶対に正しいと思う反面、自分の想いだけを考えた未来もまた選択肢としてあったのでないかという後悔。

このまま心の片隅に芳樹を想いながら、与えてくれた穏やかな時間が自然と薄れていくのをじっと待つこともできる。

それとは逆に自分の中でくすぶっている感情をもう一度取り出して行動することもできる。

悩みながらも、幾度となく考えた「もういちど一緒に過ごせたら」という身勝手な未来。

それを想うたびに自分の気持ちに蓋をして、芳樹と出会う前の平凡で当たり前の生活を取り戻そうともがいていた。

しかし、偶然見てしまった一枚の写真は、美貴恵の気持ちを大きく動かすには十分だった。

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