君に伝えたかったこと
それゆえの行動。そして1時間。
さすがに同じ場所に立ち続ける美貴恵に興味本位の視線を投げかける者も少なくない。

(もう帰ろう・・・)

そう思って、駅のほうへ歩き出そうとしたそのとき、スタジオのドアが開き誰かが出てくるのが見えた。

(もしかしたら!)

視線がドアの向こうから出てくる人影を追う。
ドアの向こうに映るシルエットは芳樹と同じくらいの背の高さ、いつも履いていたジーンズ。

シルエットが明るい場所へ出てくるまで、瞬きもせずにその一点を見つめていた。
しかし、ドアの向こう側から現れたのは見知らぬ男性だった。

(やっぱり、奇跡なんて起きないよ…無計画に会いに来るなんて)

美貴恵は小さくため息をつき、そのまま駅へ歩いていく。

(バカみたい 子供じゃないんだから、逢えないことくらい気が付けばいいのに。ホント・・・私ってバカみたい)

大粒の涙が一滴、頬を伝って落ちた。

逢いたい想いと逢えない悲しみ。

その二つの想いの間で揺れ動く、自分の気持ち。
美貴恵の中でもどうしていいのかわからないまま、想いだけが膨らんでいく。


(もう二度と逢えないんだよ)


誰かが、そうささやいた気がした


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