冷徹ドクターに捨てられたはずが、赤ちゃんごと溺愛抱擁されています
「いや、俺とのセックスの感想を聞きたい」

「ぶっ……ごほっ、ごほっ」

 口の中のアイスティーを思い切り噴き出してしまった。慌ててナプキンで口元と手のひらを拭く。

「ねぇ、公共の場でなんてこと言うのよ!」

 思わず声を潜めて、周りに聞こえていないか確認する。

「別にいいだろ、俺たち周りから見たらそういう風に見えるはずだろうから」

「え? ……そうかな」

 そういう雰囲気が出ているの?

「で、ご感想は?」

 翔平はテーブルに肘をついてこちらをじっと見ている。どうやらわたしが答えるまで許すつもりはないようだ。わたしは慎重になって言葉を選んだ。どう伝えるべきなのかと。

「よかった……と思う」

 自分の気持ちを正直に言えたはず。最後ちょっとごまかしたけど。

 嫌なことなんてひとつもなかった。あんな風にありのままの自分をさらけ出して、それを受け入れてもらったことは今までなかった。体を重ねることって本来こういうものなんだとはじめてわかった。

「なんだよ〝思う〟って。まあいい。またリベンジだな」

 不満そうな顔をした翔平が〝リベンジ〟と言った。それってまたこういう朝を迎える可能性があるってことだよね?

 はっきりと聞けないのは、どうしてだろうか。今まで翔平にはなんでも話してきたのに。

 期待しているように思われるのが嫌だから? それとも冗談で済まされるのが嫌だから?

 どちらにしてもこの日わたしはわかった。恋愛っていうのは、段取りよくお行儀よく進んでいくものではない。必死になって頭で考えていたってうまくいかない。それよりも気持ちに突き動かされて衝動的になってみた方が、よほど自分の気持ちに向き合える。

 そう今の自分みたいに。

 こんな関係になるまで翔平のことは恋愛対象に見ていなかった。いや、彼があまりにも立派すぎて早々にリストから外してしまっていたのかもしれない。

 だけど……間違いなくわたしの中で、彼に対する気持ちが変化した。これから先どうなるかわからない。だけど彼となら気持ちのままに恋をしてみるのもいいのかもしれないとそう思った。


* * *


 めいっぱいシロップのかかった甘そうなフレンチトーストをうれしそうにほおばっている。そんな彼女の姿を見て思わず顔が緩んだ。

 まさか自分が食事をしているだけの女性を見て楽しいと思える日が来るとは思わなかった。
「なに、どうかした?」
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