冷徹ドクターに捨てられたはずが、赤ちゃんごと溺愛抱擁されています
勝手に自己完結しないでほしい。わたしは先を歩く翔平を追いかける。足が長いんだから少しはゆっくり歩いてくれたらいいのに。
少し距離があいて慌てて追いかける。すると前から歩いてきた男の人がぶつかってきた。
「痛いっ。あ、すみません」
ぶつかってきたのは向こうだったのに、とっさにわたしが謝った。すると向こうはこちらを睨んで一歩わたしに近付いた。
相手はお酒を飲んでいたのか、アルコールの匂いがプンプンする。思わず顔をそむけたわたしの手を、相手が握った。
「飲みに行こう、これから」
「え?」
知り合いだったかと思って、顔を確かめる。しかしこんな人、見たことない。
「あの、結構です」
掴まれた手を、相手を刺激しないようにゆっくりと引く。しかし逆に強く掴まれてしまった。
「痛いっ」
思わず顔をしかめ、声をあげる。
「瑠衣!」
名前を呼ばれて顔を上げると、翔平が全速力でこちらに駆けてきているのが見えた。すぐにわたしをかばうようにして前に立った。
「なにかありましたか?」
いつもの彼とは違う、相手を威圧する低い声。背中しか見えなくて彼の表情まではわからなかったけれど、男は焦った顔で目を泳がせてそのまま踵を返すと走り去っていった。その速さたるや、酔いもすっかりさめたかのように見える。
「あの、えっと……ごめんね」
今日は翔平に謝ってばっかりだ。怒らせたり迷惑をかけたりしたいわけじゃないのに、どうしてこうなっちゃうんだろう。
「そういうときは、ありがとうだろ」
「でも、迷惑かけたし」
「別に迷惑でもなんでもない。俺が怒ってるのはあの男に対してで瑠衣にじゃない。瑠衣はなんでも自分の責任だと思いすぎじゃないか? 俺の前ぐらいは、気を抜けばいいのに」
確かに人に迷惑をかけないように気を付けて生きてきた。だからある程度のことは自分でなんでもできる自負がある。だからといって誰かに頼って助けてもらうことが悪いわけじゃないのだ。
「うん、こういうときは……ありがとうだね」
「そうだ。しかししっかりしてるようで、抜けてるというかなんというか」
翔平が呆れた顔でわたしを見た。
「さっきのは不可抗力でしょ?」
かわいくないことを言うわたしの手を、翔平がギュッと握った。
「最初からこうしてればよかったんだ」
「え……あ、うん」
少し距離があいて慌てて追いかける。すると前から歩いてきた男の人がぶつかってきた。
「痛いっ。あ、すみません」
ぶつかってきたのは向こうだったのに、とっさにわたしが謝った。すると向こうはこちらを睨んで一歩わたしに近付いた。
相手はお酒を飲んでいたのか、アルコールの匂いがプンプンする。思わず顔をそむけたわたしの手を、相手が握った。
「飲みに行こう、これから」
「え?」
知り合いだったかと思って、顔を確かめる。しかしこんな人、見たことない。
「あの、結構です」
掴まれた手を、相手を刺激しないようにゆっくりと引く。しかし逆に強く掴まれてしまった。
「痛いっ」
思わず顔をしかめ、声をあげる。
「瑠衣!」
名前を呼ばれて顔を上げると、翔平が全速力でこちらに駆けてきているのが見えた。すぐにわたしをかばうようにして前に立った。
「なにかありましたか?」
いつもの彼とは違う、相手を威圧する低い声。背中しか見えなくて彼の表情まではわからなかったけれど、男は焦った顔で目を泳がせてそのまま踵を返すと走り去っていった。その速さたるや、酔いもすっかりさめたかのように見える。
「あの、えっと……ごめんね」
今日は翔平に謝ってばっかりだ。怒らせたり迷惑をかけたりしたいわけじゃないのに、どうしてこうなっちゃうんだろう。
「そういうときは、ありがとうだろ」
「でも、迷惑かけたし」
「別に迷惑でもなんでもない。俺が怒ってるのはあの男に対してで瑠衣にじゃない。瑠衣はなんでも自分の責任だと思いすぎじゃないか? 俺の前ぐらいは、気を抜けばいいのに」
確かに人に迷惑をかけないように気を付けて生きてきた。だからある程度のことは自分でなんでもできる自負がある。だからといって誰かに頼って助けてもらうことが悪いわけじゃないのだ。
「うん、こういうときは……ありがとうだね」
「そうだ。しかししっかりしてるようで、抜けてるというかなんというか」
翔平が呆れた顔でわたしを見た。
「さっきのは不可抗力でしょ?」
かわいくないことを言うわたしの手を、翔平がギュッと握った。
「最初からこうしてればよかったんだ」
「え……あ、うん」