冷徹ドクターに捨てられたはずが、赤ちゃんごと溺愛抱擁されています
 それ以上のことをやっているにもかかわらず、人前で手を繋ぐなんてはじめてのことで、なんだか照れ臭い。

「いいか、この手を離すなよ」

 彼は前を向いたままそう言うと、ギュッと手に力を込めた。

 もしかしたらこれから困ったことがあったとしても……こうやって翔平が手を引いて導いてくれるのかもしれない。

 これまで男性には自分のいいところだけを見せるようにしてきた。頼るなんてできずに、よく『瑠衣は強いからひとりで大丈夫』なんてどこかで聞いたことのあるようなセリフで恋が終わっていた。

 翔平との恋は違う。

 ひとりじゃないって……いいな。

 わたしは素直にそう思えて、大きな翔平の手を握り返した。



 そんな翔平のおかげで、わたしも彼には随分素直に甘えられるようになったと思う。はっきりとした言葉はなくても、彼の気持ちを十分に感じていたわたしは幸せな日々を送っていた。

 でも……やっぱり言葉で言ってほしい。合コン仲間の誘いを断るために『好きな人ができた』と伝えた。そうなると根ほり葉ほり聞いてくるのが女友達というもの。

 わたしは相手こそ明かさなかったものの、ことの次第をかいつまんで話して聞かせる。すると皆が口をそろえて言う。

『本当に付き合っているの?』って。

 そう聞かれると不安になる。わたしたちの関係は良好で、今まで付き合ってきた彼氏よりもずっと彼氏らしかった。だからこそ言葉がなくても深く悩んだりしてはいなかったのだけれど、周りから言われると心配になる。

 わたしは寝る準備を済ませて、ベッドに横になって悶々と考える。

 ふたりにはふたりの付き合い方がある。全部が周囲の人と一緒でなくてはいけないわけじゃない。だけどただそのひと言がないだけで不安になるなら自分から聞いてみればいい。わかっているけれど、いざ聞くとなると向こうの答えが怖くて聞けない。

 いつも肝心なときにびびっちゃうの……ほんと情けない。

 スマートフォンのディスプレイには翔平の名前。受話器のマークをタッチすれば彼に繋がる。

「あっ」

 勢い余って電話をかけてしまった。すぐに切ろうと思ったけれど、それはそれで変に思われるかもと思い数コール待った。

《もしもし》

 期待していなかったのに、彼が出てちょっと驚いた。

「もしもし……今大丈夫かな?」

《ああ、どうかしたのか?》
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