冷徹ドクターに捨てられたはずが、赤ちゃんごと溺愛抱擁されています
でも心のどこかで、彼には……彼だけには悠翔の存在を否定してほしくなかった。だからこそ今日彼の『産んでくれて、ありがとう』がこんなにうれしい。
「……うっ……うう」
眠り続けている悠翔の体を強く抱きしめた。この日わたしは肩にのっていた重たいものをひとつ手放せたような気がする。
* * *
歩き出した俺は、すぐに足を止めて振り向いた。小さなアパートの二階。
明かりがついたのを確認してホッとする。さっきまで手の中にあった温もりと重みを思い出す。
俺の息子か……。
はじめて触れるその存在。手が震えていたのは瑠衣にばれていないはずだ。自分の腕の中で眠る悠翔。その子がこの世に生まれてきたとき、いったいどんな感じだったのか。知るすべのない俺に、それを今さら悔やんだところで……どうすることもできない。
悠翔の存在を知らされたのは、アメリカからの帰国を先輩の医師である中村さんに伝えたときだ。彼の奥さんは瑠衣の姉で瑠璃ちゃん。
誰よりも先に彼らに連絡を取った。瑠衣が今幸せなのかどうか知る手段として。そして聞いた。彼女がシングルマザーとして二歳になる子供を育てているということを。
そのときすぐに自分の子供だと思った。一度も疑わなかった。瑠衣はそういう女だ。
俺は二週間後を予定していた帰国を早めて、話を聞いた三日後には日本に帰国していた。
連絡を取って会いに行けば、きっと彼女は逃げるに違いない。実家のご両親がよく子供を預かっていると聞いて俺は彼女の実家近くに来ていた。
会えるとは限らない。でもじっとしていられなかった。
そんな俺の横を子供を乗せた自転車が、すっと走り抜けた。
瑠衣だ。
見間違うはずはない。向こうはもちろん気が付いていないので早足で追いかけると子供の小さな靴が転がっていた。
もしかして……。
手に取りその小ささに驚く。靴をじっと見ていると女性が前から歩いてきた。
「あ! ありがとうございます」
俺の顔を見た瞬間、彼女の顔から笑顔が消えた。
そんな彼女をじっくりと見る。
三年前より少しやせた体。綺麗に巻いていた髪は後ろでひとつにすっきりと束ねられている。以前は綺麗という言葉がぴったりだったが、今の彼女にはそれに柔らかさがプラスされた印象だ。服装も決して派手ではないが清潔感がある。
「……うっ……うう」
眠り続けている悠翔の体を強く抱きしめた。この日わたしは肩にのっていた重たいものをひとつ手放せたような気がする。
* * *
歩き出した俺は、すぐに足を止めて振り向いた。小さなアパートの二階。
明かりがついたのを確認してホッとする。さっきまで手の中にあった温もりと重みを思い出す。
俺の息子か……。
はじめて触れるその存在。手が震えていたのは瑠衣にばれていないはずだ。自分の腕の中で眠る悠翔。その子がこの世に生まれてきたとき、いったいどんな感じだったのか。知るすべのない俺に、それを今さら悔やんだところで……どうすることもできない。
悠翔の存在を知らされたのは、アメリカからの帰国を先輩の医師である中村さんに伝えたときだ。彼の奥さんは瑠衣の姉で瑠璃ちゃん。
誰よりも先に彼らに連絡を取った。瑠衣が今幸せなのかどうか知る手段として。そして聞いた。彼女がシングルマザーとして二歳になる子供を育てているということを。
そのときすぐに自分の子供だと思った。一度も疑わなかった。瑠衣はそういう女だ。
俺は二週間後を予定していた帰国を早めて、話を聞いた三日後には日本に帰国していた。
連絡を取って会いに行けば、きっと彼女は逃げるに違いない。実家のご両親がよく子供を預かっていると聞いて俺は彼女の実家近くに来ていた。
会えるとは限らない。でもじっとしていられなかった。
そんな俺の横を子供を乗せた自転車が、すっと走り抜けた。
瑠衣だ。
見間違うはずはない。向こうはもちろん気が付いていないので早足で追いかけると子供の小さな靴が転がっていた。
もしかして……。
手に取りその小ささに驚く。靴をじっと見ていると女性が前から歩いてきた。
「あ! ありがとうございます」
俺の顔を見た瞬間、彼女の顔から笑顔が消えた。
そんな彼女をじっくりと見る。
三年前より少しやせた体。綺麗に巻いていた髪は後ろでひとつにすっきりと束ねられている。以前は綺麗という言葉がぴったりだったが、今の彼女にはそれに柔らかさがプラスされた印象だ。服装も決して派手ではないが清潔感がある。