冷徹ドクターに捨てられたはずが、赤ちゃんごと溺愛抱擁されています
 理由と言われてもなんとなく嫌なのだ。これまで悠翔とふたりっきりで過ごした空間に翔平が入ってくるのが。厳密にいえば家だけではない。ぐいぐいと断ることもできない勢いでわたしたちふたりの中に翔平が入り込んできている。拒否なんてものは一切受け付けてもらえず、わたしはただ戸惑うばかりだ。

「理由っていうか……」

 この気持ちをどうやって説明すればいいのかわからない。口ごもるわたしの腕を悠翔がひっぱった。

「ママ、おしっこ」

「え! ちょっと待って、我慢してね」

「おい、早くしろって」

 先日昼間のおむつは卒業したので、急がないと失敗してしまう。大人ふたりが慌てる様子を見て当の本人は「あはは」と笑っていた。

 結局最後まで渋っていたにもかかわらず、翔平を部屋の中に入れることになってしまった。仕方ないと思いつつもテレビの前で人形で遊んでいるふたりを見ると、自然と頬がほころんだ。

「さて、やるか」

 まずは保育園から持ってきたものの片付けを済ませた。翔平が持ってきた袋も片付けようと手に取ると中になにか入っていたので取り出す。するとゴールドの箱に入った高級チョコレートだった。

「ねえ、悠翔はまだチョコレートは食べられないから。それに、こんな高級なもの必要ないよ、子供なのに」

 デパートの地下にあるひと粒五百円はくだらない有名店のチョコだ。わたしも独身のときに自分へのご褒美で時々買って食べていた。

「それくらい俺だって知ってる。それは、瑠衣にだ」

「え? わたしにっ!?」

 手の中のチョコの箱を見る。

「そうだよ。好きだっただろ」

 翔平は悠翔がテレビを見はじめたのを確認してこちらに歩いてきた。そしてわたしの手からチョコレートの箱を取ると、リボンをほどいてひと粒手に取った。

「ほら、あーん」

「えっ……あ」

 恥ずかしいなんて思う暇もなく、口元にチョコレートを差し出されて口を開いた。口の中に入れるとすぐにチョコレートが溶けはじめて濃厚な甘みが口の中に広がる。

「美味しい!」

「そうか、ほら」

「え、もったいないよ。後で食べる」

「いいから、これくらいまた買ってくる」

 次は四角いチョコレートを口に押し込まれた。洋酒のきいたガナッシュが美味しくて思わず「ん~」と声をあげた。

「その顔、見たかったんだ」

「え?」
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