冷徹ドクターに捨てられたはずが、赤ちゃんごと溺愛抱擁されています
爪は短く切りそろえていて、ネイルもしていない。あかぎれにささくれだらけ。いくらクリームを塗ってもすぐに水仕事をするからいつもこんな状態だ。
「でも、今のこの手も素敵だと思う。誰かのために頑張っている手だ」
頑張っている手。
そんな風に言われたことなんてなかった。誰かに褒めてもらうためにやっているわけじゃない。けれどうれしかった。心の底から。
「ありがとう」
素直にお礼を言う。くすぐったい雰囲気の中で、バッグの中のわたしのスマートフォンが鳴りはじめて慌てる。会社からだった。なにかトラブルでもあったのかもしれない。
「はい。山科です」
《今ちょっといいかな?》
相手は自分が担当している営業の社員だった。提案書の作成を依頼されていて、それのフォルダが見当たらないとのことだった。説明するとすぐに見つかったが、そこから修正の指示がはじまる。明日は朝早くに得意先に向かうので、今話をしておきたいとのことだった。
食事の準備をしなくては、悠翔もお腹がすいているだろう。しかし仕事は仕事で大事だ。気持ちは焦っているけれど、手帳を出してメモを取る。
すると翔平が着ていたジャケットを脱ぐと、腕まくりをしてキッチンに向かった。冷蔵庫の中を確認すると中から材料を取り出して料理しはじめる。
「え……」
《ん? 指示わかりづらかった?》
「あ、いえ。なんでもありません」
包丁を使うトントンというリズムが聞こえてくる。同時に冷凍庫に入れてあったご飯を温めている。その手際のよさは、料理が苦手なわたし以上だ。
三年前のわたしなら、電話を保留にして後でやるからやらなくていいと翔平に伝えただろう。
自分でできるから放っておいてほしいと。けれど今は彼の厚意に素直に甘えることにした。自分のプライドなんかよりも悠翔のお腹を満たすことの方が大切だから。
わたしは彼に任せると決めて、電話に集中した。
もろもろの指示が終わり電話を切って、急いでキッチンに向かう。するとフライパンの中では小さく切った鶏肉、玉ねぎ、ピーマンが炒められていた。それと解凍したごはんに卵。
「オムライス?」
「ああ、勝手に使ったぞ」
「ううん、ありがとう。助かった」
素直なわたしに慣れていない翔平がいちいち驚く。
「わたしだって、お礼くらい言えるわよ」
「でも、今のこの手も素敵だと思う。誰かのために頑張っている手だ」
頑張っている手。
そんな風に言われたことなんてなかった。誰かに褒めてもらうためにやっているわけじゃない。けれどうれしかった。心の底から。
「ありがとう」
素直にお礼を言う。くすぐったい雰囲気の中で、バッグの中のわたしのスマートフォンが鳴りはじめて慌てる。会社からだった。なにかトラブルでもあったのかもしれない。
「はい。山科です」
《今ちょっといいかな?》
相手は自分が担当している営業の社員だった。提案書の作成を依頼されていて、それのフォルダが見当たらないとのことだった。説明するとすぐに見つかったが、そこから修正の指示がはじまる。明日は朝早くに得意先に向かうので、今話をしておきたいとのことだった。
食事の準備をしなくては、悠翔もお腹がすいているだろう。しかし仕事は仕事で大事だ。気持ちは焦っているけれど、手帳を出してメモを取る。
すると翔平が着ていたジャケットを脱ぐと、腕まくりをしてキッチンに向かった。冷蔵庫の中を確認すると中から材料を取り出して料理しはじめる。
「え……」
《ん? 指示わかりづらかった?》
「あ、いえ。なんでもありません」
包丁を使うトントンというリズムが聞こえてくる。同時に冷凍庫に入れてあったご飯を温めている。その手際のよさは、料理が苦手なわたし以上だ。
三年前のわたしなら、電話を保留にして後でやるからやらなくていいと翔平に伝えただろう。
自分でできるから放っておいてほしいと。けれど今は彼の厚意に素直に甘えることにした。自分のプライドなんかよりも悠翔のお腹を満たすことの方が大切だから。
わたしは彼に任せると決めて、電話に集中した。
もろもろの指示が終わり電話を切って、急いでキッチンに向かう。するとフライパンの中では小さく切った鶏肉、玉ねぎ、ピーマンが炒められていた。それと解凍したごはんに卵。
「オムライス?」
「ああ、勝手に使ったぞ」
「ううん、ありがとう。助かった」
素直なわたしに慣れていない翔平がいちいち驚く。
「わたしだって、お礼くらい言えるわよ」