涙、滴り落ちるまで
僕の、今にも胸ぐらを掴みそうな勢いに、菫は俯いて黙り込んだ。少し俯いた菫は「瑠依の言う通りだよ」と顔を上げる。

「確かに、ボクは……負の感情を察知することが出来る。それに、ボクがああ言ったのは皆を不安にさせないためだよ」

「……え……?」

「瑠依……嫌なんでしょ?皆に心配されるの……」

そう言って、菫は困ったように笑った。

「……何だか、僕の心を見透かされてるようだな」

菫の言葉に、表情一つ変えることなくそう呟いて菫を見つめる。

「……まぁいいや。じゃあ、どうしてあの悪霊は……皆を攻撃しなかったの?確か、負の感情が強ければ強いほど凶暴になる、んだっけ?」

「そうなんだけどねぇ……あいつに関しては、ボクでも分からないや……でもね、彼を見てて分かったことがあるの。彼、本当は助けて欲しいんじゃないかな?」

「……どうして、そんなことが言えるの?」

「……何となく、かな。もしかしたら、彼は本当に助けて欲しくないのかもしれない。でも、ボクには助けて欲しいって思ってるように見えた……瑠依、お願い……彼を、救ってあげて欲しいんだ。助けて欲しくないなら、それで良いから」

そう言って、菫はふわりと優しく微笑んだ。

「…………」

僕は、本当に駄目だな……菫の言葉を聞いても、心から助けたいって思えないから。

僕は、服を掴んで無言でいることしか出来なかった。
< 119 / 156 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop