涙、滴り落ちるまで
「……ここは……」
翌日。仕事で地上に降り立った僕は、強い悪霊と遭遇して、それから……それから?
それからの記憶がなくて、気づいたらどこかの建物の中にいた。
「……駄目だ、何も思い出せない……」
僕が勢い良く立ち上がると、ズキンと頭が痛んで僕は思わず頭を押える。
「瑠依、大丈夫?」
「…………えっと……菫、だっけ」
声がした方を向いてみれば、ピンクの目の……菫かな?が心配そうに僕を見ていた。
「え?いや、晴輝……だけど」
「あれ?本当だ。ごめん……」
菫じゃなくて晴輝に謝ると、晴輝は「大丈夫だよ」と微笑む。
「……その様子だと、本当に覚えてないんだな」
聞き覚えのある声に、僕らは一斉に声がした方を向いた。
「静瑠、どうして……」
「静瑠?」
晴輝の声と、近くにいたらしい紫乃の声が重なる。
「……僕が付けたの。彼、名前がないんだって……静瑠……どういうことなの?」
「……お前、悪霊と遭遇してからの記憶がないだろ?それは、俺が無理やり瑠依の中にある力を引き出したからだ……というか……晴輝と紫乃は、目を覚ましたんならさっさと帰れ」
そう言って、静瑠は素早く紫乃と晴輝に近づくといつの間にか手に持っていた刀を、2人に突き付けた。
「……っ!」