涙、滴り落ちるまで
人前でわざと失敗して、笑われる。それが僕の仕事だった。でも、一切嫌だとは思わなかったんだ。

そんなある日、次の公演時間まで広場でジャグリングをしていると、僕の目の前で小さな女の子が転けたんだ。

女の子は、体を起こすと泣き始める。僕は、その子に近づくと『大丈夫?』と声をかけた。

これが、僕と綾の初めての出会いだった。

後から聞いた話、綾は両親とさっきまでサーカスを見てたみたいで、終わって帰ろうとした時にたまたまジャグリングをしていた僕を見かけたらしい。

『……もう、無理して笑わないで』

『え……?』

『綾花!急に走らないの!帰るわよ』

綾が何かを言いかけた時、後ろから綾の両親が現れて、綾は『うん』と手を引っ張られて帰って行った。



昔のことを思い出していたらサーカスは終わっていて、サーカスを見ていた人たちはテントから出ていく。僕は、隣にいる綾を横目で見た。

確か……それから綾と同じ小学校で同じクラスになって、友達になったんだっけ?

「面白かったね……でも、私は瑠依のパフォーマンスが1番好きだな……」

そう言って、綾は悲しそうに笑った。

「……綾……とりあえず、外へ出ようか」
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