涙、滴り落ちるまで
「1か月、ねぇ……じゃあ、まだ瑠依は弱いんだ」

「そうだね……透は、何しに来たの?」

「何しに来たって……仕事に決まってる。数か月も地上を彷徨っている霊を無理やり地獄へ連れてこい、だと……瑠依は、何か知らない?」

そう言って、透は妖しく笑う。

数か月も地上を彷徨っている霊……もしかして、祐希のことかな?

「……教えない」

僕が透を見据えると、透は「だと思った」と表情を崩さずに僕を見つめた。

「瑠依……どうして教えないの?」

誰かに袖を引っ張られ、僕は後ろを見る。そこにいたのは、綾だった。

「……ん?君は、死神が見えるの?」

綾に目を移して、透は首を傾げた。綾は「はい」と頷く。

「そうか……じゃあ、君に聞こうか……さっきの反応からすると、君も知っているように見えた。数か月も地上を彷徨っている霊のこと、何か知らない?」

透の問いかけに綾が答えようとしたから、僕は綾を見つめた。僕と目を合わせた綾は、驚いた顔をする。

「教えなくていい」

「え?でも……」

「彼は、地獄の死神だ。罪人の霊を地獄へと導く存在……その死神が、罪のない霊を地獄へ連れていこうとするんだ……最近ね」

「仕方ないだろ?女神様の命令なんだ」
< 52 / 156 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop