涙、滴り落ちるまで
「お兄ちゃん、失敗して周りに笑われててもニコニコ笑ってて……凄いなって思ったんだ!僕もお兄ちゃんみたいに、我慢して笑えたら……って……何でそう思ったのか、まだ分からないけど」

そう言って、祐希さんは悲しそうに微笑んだ。

……我慢して笑えたら……かぁ。

「……祐希くん。辛い時は辛いって言わなきゃダメ。私は……辛いことを隠して笑って、明るく振る舞う……そんな人を知ってるんだ」

「……」

綾の言葉に、僕は誰もいない場所に視線を向ける。綾は、僕の本心を少しだけ知ってるんだ。

「そうだよね……何でか分からないけど、ボク……辛いよ……苦しいよ」

祐希さんの声が聞こえてきて、僕は祐希さんに顔を向けた。祐希さんは、大粒の涙を流してる。

「……おい。早くしろ!サーカスが始まるぞ!!」

誰かの声が聞こえてきて、祐希さんは声がする方に顔を向けた。

「……ひっ」

祐希さんは誰かの顔を見た瞬間、目を見開いて体を震わせる。

「……思い、出した……ボク、彼らにいじめられてたんだった……」

僕の目の前を通り過ぎていく数人の男の子を見つめ、祐希さんは呟いた。その瞬間、悪霊の気配が一気に強くなる。そして、祐希さんの足元から出て来た黒い炎が祐希を包み込んだ。

「おい。綾花……今すぐ祐希から離れろ」

透が、綾に向かって言った。でも、綾は動かない。
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