涙、滴り落ちるまで
そう言って、直人さんは悲しそうに微笑む。陽菜は「……詳しく聞いても?」と問いかけた。

「……喧嘩のきっかけは、僕が兄ちゃんの大切にしていたキーホルダーを壊してしまったことなんです。それから、兄ちゃんは怒って僕のキーホルダーを壊してきて……その時の兄ちゃんの態度に腹が立ってしまって……」

直人さんの話を、僕と陽菜は静かに最後まで聞く。

「……僕、どうしたらいいのか分からないんです……」

「……ねぇ、直人くん。お兄さんと、仲直りしたい?」

陽菜の言葉に、直人さんは無言で頷いた。

「直人くんは、あれからお兄さんに謝ったの?」

「謝りました。でも、口を聞いてくれなくて……重い空気に耐え切れなくなって、家を飛び出してきたんです」

「……そっか……」

そう言って、陽菜は直人を心配そうに見つめる。

直人さんは、何かを考え込むと「……実はね」と悲しそうに笑った。

「……僕が壊したキーホルダーは、兄ちゃんが大好きだった……亡くなった婆ちゃんの形見なんです……」

「……」

直人さんは、そう呟くと泣き出す。

「……あのキーホルダーを壊した時……泣いたんです。普段、明るくて優しい兄ちゃんが……僕、壊すつもりは、全くなかった……のに……」
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