君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
 もう昔のことだって頭では理解しているのに、吹っ切ることのできない自分が。

 私に「気持ち悪い」って言った悟くんに対してだって、本当にもう何の感情もない。

 好きだったっていう気持ちはもちろんない。

 ――ただ、今の彼を見かけると昔の思い出が呼び起こされるだけ。

 それに今ここで樹くんに悟くんの名前を言ったら、本当にぶん殴りに行きそうな気配があった。

 私は彼に仕返ししたいわけじゃないので、やっぱり言えない。


「だけど、本当に許せねえわ」


 樹くんは相変わらず怒りの表情で、押し殺した声で言う。

 ――他人のことで、ここまで本気で怒れるんだ。

 きっと樹くんが優しいからなんだね。

 なんだかそれだけでもう、十分だった。

 過去のトラウマが、少し薄れた気がした。


「樹くん。ありがとう、そういう風に言ってくれて。だけど本当にいいの。私、大丈夫だから」


 本当はまだ完全に大丈夫だとは言い難い。

 ――だけど。

 樹くんが私と仲良くなってくれた。

 由佳ちゃんっていう、新しい友達だってできた。

 だから段々、大丈夫になってきたんだよ。

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