君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
 あなたのお陰で。

 私がなだめるように言ったからか、樹くんの怒りの感情は少し落ち着いたようだった。

 彼の眉間に浮かんでいた皺がなくなる。


「栞がそこまで言うなら……。殴りに行くのはやめるけどさ」

「う、うん」


 な、殴るのは本当にやめておいてほしい。

 私のせいで優しい樹くんが他人を傷つけるなんて御免だった。


「――だけどさ」

「うん」


 樹くんは私をじっと見つめてきた。どこか心配そうに、少し潤んだ瞳で。

 本気で私のことを案じてくれている気持ちが深く伝わってきて、ドキリとしてしまう。


「まだ誰かにひどいこと言われたり、ひどいことされたりしたら、すぐに俺に言ってよ」

「え……」

「俺が栞を守るから」


 樹くんははっきりとそう言った。

 私は少しの間、呆けてしまう。

 私を、守る?

 樹くんが……?

 そんな大切な人同士でしかかわせないような言葉、言われたのはもちろん生まれて初めてで。

 しかも、最近何度もドキドキさせられている、かっこいい樹くんに見つめられながら言われて。

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