君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
 すぐには信じられなくて、私は何度も何度もノートに書かれたその文章を読んでしまう。

 ――本当に、病気だったんだ。

 以前に、ノートに『病気』『手術』っていう文字を消した跡があった。

 たぶん私に病気のことを打ち明けたかったけれど、書いている途中で思い直したんだと思う。

 今回だって、なかなか返事をくれなかったのは、私に本当のことを言うのを迷っていたからなのかも……。

 私は彼に返事を書くために、ボールペンを手に取った。

 こんなこと、きっとあんまり人には言えない。

 顔も名前も知らない私にですら、彼は打ち明けるのを迷っていた。

 だからこのノートが、彼にとって弱音を吐ける場所になってくれたらいいなと思った。


『そうだったんだ。話してくれてありがとう。でも病気だからって大切な人を嫌いになるってことは、少なくとも私には絶対にないです』


 私は一生懸命言葉を選んだ後、そう書いた。

 病気のせいで恋愛に後ろ向きになっている彼。

 そんな彼に「諦めないで」とか「負けないで」なんて、偉そうなことは言えない。

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