君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
 だから、もし自分の大切な人が病気だったら……と考えてみて、私はそう書いた。

 もし樹くんが厄介な病気にかかっていたとしても。

 私は彼を嫌いになることなんて、絶対にない。

 私を何度も楽しい気持ちにさせてくれた樹くん。

 そんな彼がもし病気に苦しんでいたら、傍にいて自分のできることを精一杯したいと私は思う。

 返事を書いたノートを見つめながら、私はそう考えていた。

 デリケートな彼の問題に対する返事が、これで大丈夫かなと何度も自問自答する。

 ――すると、その時だった。


「……栞ちゃん」


 貸出カウンター越しに突然名前を呼ばれて、ノートに目を落としていた私はハッとして顔を上げる。

 そして、目の前にいた人物を見て私は固まってしまった。


「あ……」


 そこにいたのは、なんと悟くんだった。

 二年生に上がって隣のクラスになり、よく姿を見かけるようになった彼。

 だけど、こんな風にふたりきりで真正面から対峙することはなかったと思う。

 体育の授業中に、バスケットボールを手渡した時は、今みたいに近寄った。

 でもあの時は周りに人が大勢いた。

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