君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
 今、図書室には私と悟くんしかいない。

 だからなんだか逃げ場がないような気がして、私はとても緊張した。


「な、何?」


 私は身構えながら、やっとのことでそう尋ねた。

 昔の記憶が蘇りそうになる。

 でも樹くんの顔を思い浮かべて、なるべく鮮明に思い出さないように頑張った。


「あのさ……。俺ずっと、栞ちゃんに言いたかったんだ」


 そう言えば、この前の体育の時も、悟くんは私に何かを言おうとしていた覚えがある。

 ――言いたいこと?

 一体、なんだろう……。

 何か悪いことなんじゃないかって、怖くなる。

 昔言われたようなことを、また言われるんじゃないかって。

 できることなら、走ってこの場から逃げたかった。

 だけど体が強張って動かない。

 すると、そんな私に向かって悟くんは――。


「ごめん!」


 大きな声でそう言って、勢いよく頭を下げたのだった。

 ――え?

 思いがけない悟くんの言動に、私は虚を衝かれる。

 ――な、なんで私に謝ってるの?

 困惑する私だったけれど、悟くんはとても申し訳なさそうにこう言った。


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