君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
 私に対して樹くんが放った言葉が思い起こされた。

 そうだ。

 今の私には、心から信頼できる人がいる。

 私のことを、本気で考えてくれているひとがいる。

 だから大丈夫だ。

 もし悟くんが今嘘を言っているとしても。

 私には樹くんがいるから、大丈夫。

 それにきっと、悟くんだって本当のことを言っていると思う。

 だって、あの出来事の前は彼はずっと私に優しかった。

 ふたりで楽しい時間を過ごせていた。

 一緒に過ごした悟くんの様子は、決して嘘ではなかったと思う。

 だって、私が好きになるくらい彼は素敵だった。

 だからきっと、もし嘘があるのだとしたら。

 『気持ち悪い』って言った時の、悟くんだ。


「よかった……」


 そう思い当たった私は、深く安心してしまい、その場に座り込んでしまった。

 すると悟くんが慌てた様子で私に駆け寄ってきた。


「し、栞ちゃん? 大丈夫?」

「……うん。大丈夫。ちょっとほっとしちゃって」


 私は座ったまま、悟くんを見上げる。心底心配そうに私を見つめている彼。

< 110 / 216 >

この作品をシェア

pagetop