君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
 私が悟くんを好きかどうかなんて、樹くんがなぜ気にするのだろう。

 すると樹くんはハッとしたような顔をした。

 そして、彼は表情を緩ませた。

 今までずっと険しい顔をしていたのが、やっと穏やかになった。


「ごめん、栞。すげーイライラしちゃって突っかかっちゃっただけ。別に怒ってるわけじゃないから」

「う、うん」


 いつもの優しい口調になった樹くんに私はほっとしたけれど、やっぱり不思議だった。

 なんて「すげーイライラ」なんてしたんだろう……。


「もう行こ。映画始まっちゃう」

「……うん」


 気になったけれど、せっかく樹くんの気持ちが落ち着いたみたいだったから、私はこのことを掘り返すのはやめた。

 樹くんと悟くん、喧嘩した感じになっちゃったみたいだけど、大丈夫かな。

 同い年のいとこなんて、きっと仲が良かったんだと思うけど……。

 いつもの元気で楽しい樹くんと映画館までの道を一緒に歩きながらも、私はふたりの今後の関係を少し不安に思うのだった。

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