君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
 ほぼすべてのソファが、男女の組み合わせで。

 ――えっ。

 これってカップルシートか何か……?

 図書館側はそう意図していないかもしれない。

 親子や友達同士で座ったって別に悪くはないだろうし、現にそういうふたり組もいた。

 だけど、この図書館は私の通う高校と目と鼻の先。

 さらに、この近くには大学もいくつかある。

 そして夕方前の時間となれば、恋人同士がここに集まるのは必然的らしく。

 私と同じ制服を着たカップルが、仲睦まじそうに雑誌を眺めているのが見えた。

 わ、私はお呼びじゃないみたい。

 恋人なんていないし……ということももちろんだし、ひとりで大きなソファに座るのは気が引ける。

 だから私は、ひとり用の椅子が並ぶ閲覧スペースに移動しようとした。

 ――だけど、その時。


「あ、栞。こんなとこにいた」

「い、樹くん」


 樹くんが本を数冊抱えながら駆け寄ってきた。


「栞が前に好きだって言ってた作家さんの本いっぱいあってさ。俺、とりあえず片っ端から借りて読もうと思って」

「そうなんだ」

「栞はなんかいい本見つけた? ……ん?」


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