君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
 樹くんが、カップルシートゾーンの存在に気づいたらしく、そちらの方をじーっと眺めた。

 恋人だらけの場所の近くにいたことが、なんだか恥ずかしくなる私。


「あ……。なんだか知らない間にここに着いてさ。ひ、ひとりで座れるような場所の方がいいんだけど」


 私は変な言い訳をしてしまう。

 ペアシートに座りたいからここにいたのかなって樹くんに思われたら、嫌だったから。

 ――だけど樹くんは。


「あ、いいじゃんここ。一緒に座ろ」


 にこりと笑って、軽い口調で言う。

 私は「えっ」と声を漏らしてしまった。

 ――どういうつもりで言っているんだろう。

 明らかに恋人専用っぽい空間になっている場所に、一緒に座ろうって……。

 深い意味はないかもしれない。

 樹くんのことだから「ちょうどふたりとも座れる場所あったじゃん」くらいにしか思っていないのかもしれない。

 友達同士で一緒に座るくらいにしか考えてないのかもしれない。

 ――だけど、私は。

 あなたがほんの少しでも私にそういう意識があるんじゃないかって、期待しちゃうんだよ。


「えっ、ダメ?」

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