君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
「ダメじゃない……よ」


 尋ねてくる樹くんに、私はたどたどしく返答する。

 ダメなわけないじゃない。

 たぶんとても緊張しちゃうけど、樹くんと一緒に座りたいに決まっている。

 だけど座るってなったら、こ、心の準備がっ!


「じゃ、座ろ」

「う、うん」


 樹くんが開いているソファを探しに歩き始めたので、私は彼の後に続いた。

 心臓の音がどんどん大きくなる。

 体を密着させてひとつの本を読むカップルを目にしたら、クラクラしてしまった。

 あ、あんな風に近づいて座るってわけじゃないよね。

 そんな風にひとりドギマギしていると。


「げ、全部埋まってた。残念」


 樹くんが、本当に残念そうに言った。

 少なくとも、私にはそう見えた。

 私も昂っていた気持ちが一気にダウンしてしまった。

 満席かあ。

 座れないんだ……。

 座る前までは「どうしよう」「座ったら樹くんとすごく近いのに」なんて、おろおろしていたというのに。

 いざ座れないとなると、がっかり感がすごかった。

 なんだかんだ言って私、樹くんと一緒に座りたかった。

 ――だって。

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