君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
 私、樹くんのことが本当に好きだから。


「座りたかったなあ。でも、今回は無理そう」


 座っているふたり組はみんな本に熱中しているように見えて、すぐに退きそうな気配はなかった。

 樹くんの言う通り、諦めた方がよさそうだ。

 ――だけど、それにしても。

 樹くん、座れなくて残念だったの?

 座りたかったの?

 ……私と一緒に。

 やっぱ人気者の樹くんのことだから、深い意味はないのかもしれない。

 だけど私は、そんなことを言われたらいちいち期待してしまうよ。


「――そうだね。ちょっと座れなそうだね」


 がっかりはしたけれど、安堵の気持ちも少なからずあった。

 だ、だって樹くんとあんなに近くに座ることになったら、息ができなくなっちゃいそうで……!

 私には、このソファを使うのはまだ早い気がする。

 精神的にも、私と樹くんの関係的にも。


「うん。じゃ、また今度だね」

「えっ?」

「今度またふたりで来よう。そしたらここに座ろうよ」


 樹くんが笑顔で言う。

 今度、またふたりで。

 この場所に。

 そしてふたりで、このソファに座る。

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