君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
 ――そうだ。

 私だって。

 私は手を伸ばして、樹くんと手を繋ごうとした。

 触れ合おうとした瞬間、やっぱり少し怖くなって手を引っ込めてしまいそうになった。

 ――だめだよ、積極的になろうって決めたじゃない。

 そう思って、私は勇気を振り絞って樹くんの手を握った。

 ――すると。


「栞……?」


 樹くんが、驚いたような声で私の名を呼んだ。

 私は怖くなって目をぎゅっとつぶってしまう。

 同時に、力が入って樹くんの手を握りしめてしまった。

 樹くん、びっくりしちゃってる。

 うわわ、やっぱりダメだったのかな……。

 だけどいまさら引っ込みがつかなくって、私は樹くんの手を強く握り続ける。

 ――すると。


「そんなに緊張しなくてもいいのに」


 聞こえてきたのは、樹くんのとても優しい声。

 それと同時に、彼は私の手のひらを握り返してくれた。

 一方的ではない、手と手の繋ぎ合い。

 私はハッとして目を開き、樹くんの顔を見る。

 彼は私を見守るように見つめながら、ひどく優しく微笑んでいた。

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