君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
 ただでさえドキドキしていた心臓が、波打つように激しく動いてしまう。

 この音、手のひらを通して樹くんに聞こえちゃわないかなって不安になった。

 樹くんは手を繋いだまま、私と歩調を合わせるようにゆっくりと歩いている。

 それ以上は何も言わなかったけれど、表情は優しい微笑のままだった。

 その行動が、私のことを受け入れてくれたような気がして、とても嬉しかった。

 ――だけど。

 私は清水の舞台から飛び降りるような気持ちで、樹くんと手を繋いだというのに、彼はあまりにもあっさりとした対応だった。

 ちょっと驚いてはいたけど、私みたいにドキドキしている様子とかはなかったよね……。

 今までにだってそういう樹くんは見たことはない。

 やっぱり樹くんにとって、手を繋ぐことに深い意味はないのかもしれない。

 人気者だもんね、きっと他の女友達とも距離が近いのだろう。

 まあでも嫌われてはいないことは、さすがの私にも分かった。

 私、この恋をもう少し頑張ってみるよ。

 私は自分自身と、相談に乗ってくれたノートの彼に向けて、心の中でそう言った。

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