君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
 私がそんなことを考えていると。


「ごめん、栞。ちょっと……」

「え?」


 樹くんが急にか細い声を上げたので、私は驚いて立ち止まる。

 すると彼は、繋いでいた手を離してその場に座り込んでしまった。


「い、樹くん!? どうしたのっ?」


 突然のことに私は慌てて尋ねたけれど、樹くんはしゃがんだまま俯いている。

 髪の毛の隙間から見えた頬が、やたらと青白く見えた。


「……ごめん、ちょっと立ち眩みがして」

「え!? 大丈夫なの!? 具合悪いっ?」

「いや、たぶん昨日遅くまでゲームしてたから。単なる寝不足っすな。心配しないで、ありがと」


 不安になって尋ねた私だったけれど、樹くんの答えに安堵した。

 ――なんだ、寝不足かあ。

 私も眠すぎて保健室に眠りに行ったこともあるし、眠いと辛いよね。

 そう思った私だったけれど、再び樹くんの横顔を見て眉をひそめた。

 ただの寝不足にしては樹くんの顔色が悪い気がした。

 それに彼が発した声が、やたらとか細く聞こえる。

 本当にただの睡眠不足?

< 140 / 216 >

この作品をシェア

pagetop