君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
 本当は具合悪いのに、私に心配させないようにそう言っているんじゃ……。

 そんな悪い想像まで浮かんでしまった。

 ――しかし。


「あー、少し休んだら復活した。もう、平気」


 樹くんがすっくと立ち上がって、元気そうな声で言った。

 声は確かに平気そうだったけれど、顔はまだ青白いままだった。

 それを見てしまった私の不安は消えない。


「本当? 顔色悪く見えるけど……」

「え、マジ? 別にもう平気だけどなあ。ま、家帰って寝ればそれも治るって」

「そう……?」


 軽い口調で話す樹くんだったけれど、私はまだ心配だった。

 本人は平気だって言っているけれど、やっぱりいきなり座り込むなんてちょっとおかしいよね……。

 そう思った私は、樹くんにこう言った。


「私、樹くんを家まで送るよ」

「えっ? なんで?」

「だって心配だし……。ひとりになった後に樹くんがまた座り込んだりしたら」

「えー、大丈夫だってば。もうあんなことにならないって」

「いいからっ。私が不安なの! だから送らさせて!」


 樹くんが断ることは想定していた。

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