君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
 樹くんがあっけらかんと言った言葉に、あっさりと落胆させられる。

 そっか、そうだよね。

 友達同士、家を行き来するなんて普通なんだよね。

 私にとっては異性の知り合いの家に行くって大イベントなんだけど、樹くんはきっと日常茶飯事なんだろうな。


「あ、ありがとう!」


 がっかりした気持ちを隠すように、私は笑って言う。

 ――すると、その時。


「あれ、樹と……栞ちゃん?」


 背後から声をかけられた。

 誰?と思って私は振り向く。

 すると、そこには。


「あ、悟」


 樹くんの従兄弟であり、私と同じ中学だった悟くんだった。

 もしかしたら、親族同士だし家が近いのかもしれない。

 そ、そういえばあの後悟くんと話してなかったなあ。

 図書室で、樹くんと悟くんが揉めるような感じになった後だ。

 昔のことを謝ってくれた悟くんに対して、私はもう負の感情は持っていない。

 わざわざ謝罪をしに来てくれたことに、感謝しているくらい。

 だけどふたりは、あの後気まずいままなのかな……。

 そう思った私は、なんとなく緊張してしまった。

 ――だけど。


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