君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
「樹、今帰ってきたの」

「おー。遊んでたら遅くなった」


 ふたりは軽い調子で会話をし出した。

 ふたりにわだかまりのようなものは感じられなくて、私はほっとする。

 幼い頃から付き合いのあるいとこ同士だから、あれくらいの言い合いをしたくらいで仲が壊れることがないのかもしれない。

 私の知らないところで、ふたりが話したのかもしれないし。

 気を遣わない仲みたいでいいなあって、私が考えていると、悟くんはなぜか眉間に皺をよそて、こう言った。


「またそんな体で遊びまわってんの?」


 咎めるような口ぶり。

 樹くんが遊びまわることが、ダメだとでも言っているような。

 そんな体って?

 ね、寝不足のことを悟くんも知ってて、そのことを言っているだけだよね……?


「うっせーなあ、もー」


 樹くんは口を尖らせて、不満げに言う。

 気心の知れているいとこに対する、素直な文句に聞こえた。

 悟くんの問いに、軽い感じで返答した樹くん。

 だから、悟くんの「そんな体で」という言葉には、深い意味はないのかもしれないと私は思った。

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