君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
 いまだに顔色が悪いのが、気になったけれど。

 そんな樹くんに向かって悟くんはため息をつくと、私の方を向いてこう言った。


「栞ちゃん、樹をここまで連れてきてくれてありがとう」

「えっ? いや、連れてきたっていうか、私は一緒にここまで来ただけで……」


 樹くんが座り込んでしまった時は、心配で送るなんて言ったけど、あの後彼は思ったよりも元気そうだったので、送るというよりはただついていくみたいな感じになってしまった。


「いや、助かったよ。本当にありがとね」


 やたらと真剣な顔で悟くんが言う。

 助かった?

 なんで家の前まで一緒についてきただけで、そこまで言うのだろう?

 何か事情があるのかな……?

 そう思った私だったけれど。

 樹くんの家の玄関の扉が開いて、中から女性がひとり出てきた。

 四十代前半くらいだろうか。長い髪をきれいに巻いた、きれいな人だった。

 目元がどことなく樹くんに似ている気がする。

 樹くんのお母さんかな……?

 彼女はきょとんとした面持で私たち三人を見ている。


「話し声がすると思ったら。樹、帰ってたのね~。悟くんも」

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