君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
「えっ……あ、はあ」

「はいはいいいから! 入った入った!」


 私に手を振るお母さんを、追い立てるように家の中へと入って行く樹くん。

 悟くんも「じゃあね、栞ちゃん」と言って入って行った。

 「なんで悟も入ってくんの」「今日、お前んちで飯食うって話だったじゃん」
「そうよー、樹。忘れたのー?」なんて声が聞こえた後、玄関のドアが閉まって静かになった。

 な、なんだか嵐が去ったような気分だなあ。

 樹くんのマイペースでどこか人を食ったような性格って、お母さん譲りなのかも。

 お母さん、なんだか面白そうな人だなあ。

 と、樹くんの知らない一面を知れた私は、ちょっと嬉しい気持ちになりながらも彼らが入って行ったドアを眺めた。

 だけど、すぐに樹くんのお母さんが登場する前の悟くんの発言を思い出して、私は少し不安になった。

 「そんな体で」とか「助かったよ」とか、悟くんが言っていたことがちょっと引っかかるなあ。

 それに、単なる寝不足にしては樹くんの顔がやたらと青白かったし……。

 本当に大丈夫なのかな?

< 149 / 216 >

この作品をシェア

pagetop