君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように
 ノートを閉じてから、苦笑を浮かべながら私はそう言った。

 『会いたい』って言ったことは別に琴子に伝えてもいいけれど、病気や私の恋愛相談のことはまだ言いづらい。


「えっ、そうだったの?」

「……向こうは会いたくないってことだよね」

「なんで? そうとも限らないでしょ」


 琴子がきょとんとした顔をする。


「え、だって『ごめん』ってことはさ。私とはノート上の関係だけでいたいってことじゃない」

「確かにそうかもしれないけどさ。向こうが栞と同じ状況ってわけじゃないのかもよ」

「どういうこと……?」


 琴子の言っている意味が分からず、私は首を傾げた。


「向こうは栞がこのノートを書いてるんだって知っている可能性だってあるじゃない。そうだとしたら、彼の方は栞に自分の正体を知られたくないとか、そう思ってる場合もあるんじゃないかなって」

「あ……!」


 自分は彼の正体を知らないのだから、向こうだって私のことを知らないんだって自然と思い込んでいた。

 だけど琴子の言う通りだ。

 彼の方は、私がノートに書き込みをしている人だって知っている可能性はゼロじゃない。

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